大阪府豊中市来談者調査

調査の概要

この調査では,豊中市の生活困窮者自立支援相談事業窓口への来談者の方を対象に,質問紙調査とインタビュー調査を実施いたしました.前者は,2021年2月に相談支援員を通して質問紙を配布し,郵送とウェブのいずれかの方法で回答してもらいました.質問紙は来談者100名に配布し,60名の方より回答を得ました.後者は,2021年4月から9月にかけて質問紙調査に回答した人のうち,12人を対象として対面またはオンラインにてインタビューを実施しました.調査の所要時間は1回あたり1時間半から2時間程度で,インタビュアーは2名で実施しました.

調査速報

本調査の途中経過は,第143回社会政策学会大会において分科会を立てて報告を行いました.具体的には,テーマ別分科会「自立相談支援窓口への来談者から見た豊中市の相談等サービス:質問紙調査とライフヒストリー・インタビューによる分析の中間報告」と題して報告いたしました.報告に際しては,本調査を中心的に担ったメンバー(筒井美紀・長松奈美江・阿部真大)より3本の成果にまとめています.以下では,主な知見についてお示し致します.

 

第1報告:筒井美紀(法政大学)

報告タイトル:「豊中市来談者調査」に狙いと分析枠組み

報告内容:豊中市の支援サービスについては,たくさんの先行研究があり,高い評価を得ている.では,新型コロナ感染症拡大の状況下で豊中市の生活困窮者自立支援窓口へと相談に訪れたのは,どんな人びとだろうか.私たちは2021年,同窓口への来談者にアンケートとインタビューを実施した.後者ではライフヒストリーを詳しく伺った.彼らは,何らかの事情によってウェルビーイングを叶えにくくなっており,少なくとも客観的には,人生の編み直しを必要としている人びとである.

 

第2報告:長松奈美江(関西学院大学)

報告タイトル:豊中市・自立支援相談窓口への来談者の特徴と支援サービスへの評価

報告内容:来談者を対象としたアンケート調査から,多くの来談者は困りごとがあっても家族や友人には頼ることができず,「行政や地域の相談機関・相談員」を頼りにしていることがわかった.インタビュー調査からは,複合的な問題を抱える来談者にとって、家族・友人以外の「頼りになる存在」=「制度的な弱い紐帯」を獲得する体験は,来談者の「セーフティネット」として認識され,たとえ来談者の「問題」が解決されなくても,前も向いて生き続けるための糧となっていることがわかった.

 

第3報告:阿部真大(甲南大学)

報告タイトル:行政サービスへの信頼感は何によってもたらされるのか?

報告内容:今回の調査で得られたインタビューデータからは,支援において「理解される」ことが,来談者にとっていかに力づけられる経験であるかが明らかになった.しかし一方で,そこで提供される,求職活動を条件とした現金給付といった新自由主義的な制度・政策に関して,その不当性を指摘する人もいた.ミクロなレベルでの支援の達成と,マクロなレベルで見たときの制度・政策の限界は分けて考えなくてはならないのである.

 

上記報告は,学会誌『社会政策』より2022年に刊行を予定しております.

今後とも,私たちのプロジェクトにご関心をお持ちいただければ幸いです.

 

<研究業績の詳細>

筒井美紀,「「豊中市来談者調査」の狙いと分析枠組み」,『社会政策学会第143回大会 テーマ別分科会② 自立相談支援窓口への来談者から見た豊中市の相談サービスー質問紙調査とライフヒストリー・インタビューによる分析の中間的報告』,2021年10月.
長松奈美江,「豊中市・自立相談支援窓口への来談者の特徴と支援サービスへの評価」,『社会政策学会第143回大会 テーマ別分科会② 自立相談支援窓口への来談者から見た豊中市の相談サービスー質問紙調査とライフヒストリー・インタビューによる分析の中間的報告』,2021年10月.
阿部真大,「行政サービスへの信頼感は何によってもたらされるのか?」,『社会政策学会第143回大会 テーマ別分科会② 自立相談支援窓口への来談者から見た豊中市の相談サービスー質問紙調査とライフヒストリー・インタビューによる分析の中間的報告』,2021年10月.